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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1467号 判決 1975年12月23日

控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という)

日本通運株式会社

右代表者代表取締役

沢村貴義

右訴訟代理人弁護士

鎌田英次

永沢信義

山田忠史

被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という)

山田勝重

右訴訟代理人弁護士

石川元也

(他二名)

主文

一、控訴人の控訴ならびに被控訴人の附帯控訴(請求の拡張を含む)にもとづき原判決主文第二、三項をつぎのとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、(1)別紙第一賃金等目録上欄の各金員((四)の金員を除く)および右各員(ただし(一)、(四)の金員を除く)に対する同目録下欄記載の日の翌日よりそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員ならびに(2)昭和四九年一二月一日以降雇傭契約終了に至るまで毎月二五日限り金一五一、三七〇円ずつを支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二、その余の控訴を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも全部控訴人の負担とする。

四、この判決の前記一の(1)の部分および(2)のうち支払期日が昭和五〇年六月二五日までの部分は仮に執行することができる。

事実

控訴人訴訟代理人らは、控訴につき、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訟人の負担とする」との判決を、附帯控訴につき、「被控訴人の附帯控訴にかかる請求を棄却する」との判決をそれぞれ求め、被控訴人訴訟代理人らは、控訴につき、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする」旨の判決を、附帯控訴につき、「原判決中被控訴人敗訴の部分を取消し、原判決主文第二項をつぎのとおり変更する。控訴人は被訴人は被控訴人に対し、別紙第二賃金等目録上欄記載の各金員((四)の金員を除く)および右各金員((一)(四)の金員を除く)に対する同目録下欄記載の日より各支払ずみに至るまで年五分の割合の金員ならびに昭和四九年一二月一日以降毎月二五日限り金一六七、四二七円ずつを支払え」との判決および右金員支払の全部につき仮執行の宣言をそれぞれ求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一、主張

(被控訴人)

原判決事実摘示のうち、「請求原因」五、六項(原判決一三枚目表末行から一五枚目裏三行目まで)を次のように改める。

五、被控訴人の賃金ならびに一時金請求権

本件休職ならびに解職処分が無効である以上、被控訴人は右休職期間中ならびに解職後における賃金および一時金の請求権を有する。

被控訴人は控訴会社から当月分の賃金を毎月二五日限り支給され、また毎年七月五日と一二月五日の二回に夏季および年末一時金の支払を受けてきた。被控訴人が休職に処せられた日の翌日である昭和三六年五月九日以降控訴会社から支給を受けるべき賃金および一時金の額は別紙第二賃金等目録記載の(一)(二)(三)(四)の金額である。すなわち、被控訴人が昭和三六年五月二五日以降昭和四二年六月二五日までの間に支払を受けるべき賃金、一時金の総額は合計金三、六九二、七〇一円であって、そのうち同目録(一)記載の金二、四九六、二六四円は被控訴人が右期間中の賃金等として仮処分第一審判決により控訴会社から支払を受けた金額であり、同目録(二)記載の金額一、一九六、四三七円はその残額であり、同目録(三)(四)記載の金員は被控訴人が昭和四二年七月分以降支給を受けるべき未払の賃金、一時金の額であって、右各金員の支払日は、それぞれ同目録下欄記載のとおりである。なお、被控訴人が支給を受けるべき賃金、一時金の算出の明細は、被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表および別表(2)賃金計算表のとおりである。

そこで、被控訴人は控訴会社に対し、別紙第二賃金等目録の上欄記載の各金員((四)の金員を除く)および右各金員(ただし(一)、(四)の金員を除く)に対する同目録下欄記載の日からそれぞれ支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金ならびに昭和四九年一二月一日以降毎月二五日限り金一六七、四二七円ずつの支払を求める(同目録記載の金員のうち、支払期日が昭和四七年三月二五日までの分は原審での請求を当審で減縮したものであり、支払期日が右期日より後の分は原審で拡張したものである。なお、右請求のうち当審口頭弁論終結時(昭和五〇年七月一〇日)以降の賃金については将来発生すべき債権としてあらかじめ、その支払を求める)。

六、よって、被控訴人は本訴において、被控訴人に対する解職が無効であることを争う控訴会社に対し、被控訴人が雇傭契約上の権利を有することの確認を求めるとともに、附帯控訴の趣旨のとおりの金員請求ならびに右金員請求部分に対する仮執行の宣言を求める。なお、右金員請求部分中昭和五〇年七月以降毎月二五日限り金一六七、四二七円ずつの支払を求める部分は、当審口頭弁論終結時(昭和五〇年七月一〇日)以降において弁済期が到来するので、将来の給付請求であるが、控訴会社が将来自発的に被控訴人を就労させ、賃金を支払うことを期待することはできないので、予め本訴において請求する必要がある。

原判決事実摘示のうち、「被告の主張に対する原告の反論」7、8項(原判決三一枚目表四行目から三二枚目表一行目まで)を削除する。同9項のうち原判決三二枚目表二行目の「および」以下同四行目の「主張事実」までを削除する。

(控訴人)

原判決事実摘示の「請求原因に対する認否と主張」のうち、原判決一六枚目表一行目から二行目にかけてある「平均出勤日数が一カ月当り二五日で、」を削除し、二二枚目裏一行目の「度」を「後」に、二五枚目表六行目の「明日」を「明白」にそれぞれ改め、八項(原判決二六枚目表二行目から二七枚目裏五行目まで)を次のように改める(なお、控訴会社主張の原判決添付の別表(2)に昭和三八年夏季一時金として「三八、五二七」円とあるのを「三八、六二七」円に訂正する)。

八、賃金等の請求について

被控訴人は、歩合給から固定給に変更された日以降の時間外勤務時間について、昭和三九年二月から同四八年六月までの間は一日平均時間外勤務時間三時間、一カ月平均時間外勤務時間六九時間とし、隔週週休二日制が実施された昭和四八年七月以降は、一日平均時間外勤務翌外勤務時間二・五時間、一カ月平均時間外勤務時間五二時間としているが、これは誤った推測に基づくものである。

時間外勤務時間についての、控訴会社関西支店の実態は、次のとおりである。

(1)  昭和三九年二月から同四八年六月まで

一カ月当り平均時間外勤務時間数 四二時間

(2)  昭和四八年七月以降

一カ月当り平均時間外勤務時間数 三四時間

なお、一カ月の平均出勤日数について、控訴訟会社関西支店の実態は、次のとおりである。

(1)  昭和三九年二月から同四八年六月まで

平均出勤日数 二三日

(2)  昭和四八年七月以降

平均出勤日数 二一日

右に明らかにしたように、控訴会社において統計をとった時間外勤務の平均時間数と平均時間数と平均出勤日数を算出基礎として、被控訴人が仮に現在まで勤務したとして、その基準内賃金、出勤奨励金、時間外勤務手当、一時金を計算すると、昭和四六年一二月までは原判決添付の別表(1)正しい賃金算出基礎表、同別表(2)賃金計算表に記載のとおりであり、昭和四七年一月以降のそれは控訴人主張の別表(3)賃金算出基礎表、同別表(4)賃金計算表に記載のとおりである。

二、証拠関係(付加)(略)

理由

当裁判所は、(1)被控訴人との間に雇傭契約上の権利を有する、(2)控訴人は被控訴人に対し別紙第一賃金等目録上欄記載の各金員((四)の金員を除く)および右各金員(ただし、(一)、(四)の金員を除く)に対する同目録下欄記載の日の翌日よりそれぞれ支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金ならびに昭和四九年一二月一日以降雇傭契約終了に至るまで毎月二五日限り金一五一、三七〇円ずつを支払うべき義務があるものと判断するから、被控訴人の請求は右の限度で認否すべきであるが、被控訴人のその余の金員請求は失当であると考える。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の説示するところと同じであるから、その理由記載を引用する。

一、原判決三五枚目表四行目から五行目にかけてある「川西種一」の次に、「、当審証人天見吉正(第一回)」を加え、同五行目および四一枚目裏一行目ならびに五八枚目表一行目の「原告本人の供述」をいずれも「原、当審における被控訴人本人の供述」に改め、四〇枚目表五行目から六行目にかけて「同岸本和久」とあるのを「原、当審証人岸本和久」に改め、四〇枚目裏一二行目の「当裁判所」を「当控訴審裁判所」に改め、四一枚目表末行の「かえって」の前に、「また当審証人天見吉正の証言(第一回)中には、右の立寄行為継続の主張に一部副うかのような供述部分があるが、右は間接的なもので、にわかに採用しがたい」を加え、四八枚目表五行目の「求められ」の次に「る」を加え、四八枚目裏三行目の最後の「り」を削除する。

二、原判決理由の五項(原判決五九枚目裏四行目から六五枚目裏一行目まで)を次のように改める。

五、賃金、一時金の請求について

1  被控訴人が控訴会社から当月分の賃金(基準内、基準外賃金)を毎月二五日限り支給を受け、また、毎年七月五日と一二月五日にそれぞれ夏季および年末一時金の支給を受けていたことは、控訴会社において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  休職期間中の賃金について

休職期間中(昭和三六年五月九日以降昭和三七年六月五日まで)の被控訴人の賃金は、被控訴人が休職に処せられた当時の平均賃金の一〇〇分の六〇の限度で正当として是認すべきことは先に判断したとおりである。そして、被控訴人が休職になった昭和三六年五月当時の被控訴人の平均賃金が一カ月金三三、八四〇円であったことは当事者間に争いがない(被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表と控訴会社主張の原判決添付別表(1)正しい賃金算出基礎表を対照)から、その一〇〇分の六〇に相当する金二〇、三〇四円を基礎として右休職期間中に被控訴人が控訴会社から支給をうけるべき賃金額を算出すると、その金額は金二六二、〇九六円(円未満切捨、ただし昭和三六年五月分と昭和三七年六月分は日割計算によって算出した)である。しかし、このうち被控訴人が控訴会社から金一四、〇〇〇円の支給をうけたことは当事者間に争いがないから、これを差引くと金二四八、〇九六円になる。

3  休職期間経過後解職までの賃金について

被控訴人の休職期間は懲戒委員会が控訴会社大阪支店長に対し答申した昭和三七年六月五日の経過をもって満了したものと解せられる(書証略―労働協約第四八条)。したがって、被控訴人はその翌日である昭和三七年六月六日以降解職されるに至った同年六月一五日までの賃金については当然に請求権を有するものというべきところ、昭和三七年六月当時の被控訴人の賃金が一カ月金三七、〇九五円であることについては当事者間に争いがないところである(被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表と控訴会社主張の原判決添付別表(1)正しい賃金算出基礎表を対照)から、これに基づいて右期間中の被控訴人の賃金を日割計算により算出すると、その金額は金一二、三六五円であることが明らかである。

4  休職以降昭和四二年六月分までの賃金、一時金について

被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表と控訴会社主張の原判決添付別表(1)正しい賃金算出基礎表を対比照合すると、昭和三七年六月一六日以降昭和三九年一月分までの間の被控訴人の賃金、一時金に関する当事者双方の主張は一致している。しかし、昭和三九年二月分以降昭和四九年一一月分までの被控訴人の賃金、一時金については、そのうち基本給、特別手当、出勤奨励金、一時金の額は当事者間に争いがない(被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表、同別表(2)賃金計算表と控訴会社主張の原判決添付別表(1)正しい賃金算出基礎表、控訴会社主張の別表(3)賃金算出基礎表とを対象。ただし、昭和四一年度の夏季一時金が右の別表(1)正しい賃金算出基礎表では六五、二五八円となっているが、これは六五、二八五円の誤記と認める。また昭和四七年度の年末一時金が被控訴人の主張では一五八、〇〇四円、控訴会社主張では一五八、七四九円という微差があるが、少くとも被控訴人主張の一五八、〇〇四円の金額だけあることは争いない)が時間外勤務手当についてだけは争いがある。もっとも、時間外勤務手当算出の基礎となった事項のうち、時間外一時間当り単価が被控訴人主張の別表(1)賃金算出基礎表の「時間外単価」の欄に記載の各金額であること、および平均出勤日数が昭和三九年二月一日以降同四八年六月三〇日までは一カ月二三日、同四八年七月一日以降は一カ月二一日であることは当事者間に争いがないから、以下には争いのある時間外勤務時間数についてだけ検討する。

被控訴人は、時間外勤務の平均時間数を昭和三九年二月以降一日当り三時間(一カ月六九時間)、同四八年七月以降一日当り二・五時間(一カ月五二時間)であると主張している。しかし、(書証略)によると、昭和三五、六年ごろに比し、昭和三九年二月以降は、歩合給が固定給に変更されるのにともない、控訴会社従業員の時間外勤務の平均時間数が減少していることが推認されるから、書証略(昭和三五年四月一六日から同三六年五月七日までの被控訴人の実働票)、書証略(被控訴人の昭和三六年四月一七日から同年五月六日までの実働票および同年五月七日の輸送作業票)、当審(人証略)によっても右主張事実を認めるに充分でなく、他に従業員の時間外勤務の平均時間数が被控訴人主張のとおりである点を認めるに足る証拠はない。しかしながら、本件では控訴会社が被控訴人の時間外勤務の平均時間数を昭和三九年二月から同四八年六月までは一カ月四二時間、昭和四八年七月以降は一カ月三四時間であると主張するので、被控訴人の主張は控訴会社主張の右の限度で認めるのが相当である。

以上説示の事実にもとづき本件解職後昭和四二年六月二五日までに被控訴人が控訴会社から支給をうけるべき賃金と一時金の合計額を算出する(争いのある時間外勤務手当額は、前記「時間外単価」に前認定の「時間外勤務の平均時間数」を乗じて算出)と、金二、九三二、〇六七円になるから、本件休職以降昭和四二年六月分までの賃金、一時金の合算額は右合計額に前記2、3の金額を加えた金三、一九二、五二八円である。そして、このうち別紙第一賃金等目録(一)記載の金額が仮処分第一審判決によって被控訴人が昭和四二年六月二五日までに控訴会社から支払を受けた金額である(このことは当事者間に争いがない)から、残余の同(二)記載の金額が昭和四二年六月二五日当時未払の金額であるといわなければならない。

5  昭和四二年七月分以降雇傭契約終了に至るまでの賃金、一時金について

前記4に説示の事実に基づき、昭和四二年七月一日以降被控訴人が控訴会社から支払をうけるべき賃金、一時金を算出する(争いのある時間外勤務手当額の算出方法も前記と同じである)と、その明細(金額と支払年月日)は別紙第一賃金等目録(三)(四)記載のとおりである。

6  口頭弁論終結時以降の賃金

当審口頭弁論終結時である昭和五〇年七月一〇日には未だ支払期日の到来していない昭和五〇年七月分以降控訴会社が被控訴人を現実に就労させるまでの賃金については、控訴会社が終始一貫して本件解職処分を有効であると主張して被控訴人の就労を拒否している現状に照らせば、控訴会社は今後、被控訴人を任意に就労させ、賃金を支払うことは到底期待できないから、被控訴人が本訴において右賃金を予め請求する必要があることは是認できる。したがって、被控訴人は控訴人に対し昭和五〇年七月分以降雇傭契約終了に至るまで毎月二五日限り将来にわたって当審口頭弁論終結時の賃金一五一、三七〇円ずつの支払を請求できるものといわなければならない。

そうすると、原判決は冒頭の当裁判所の認定の限度を昭和四二年六月二五日支払期日の金額、各金員に対する遅延損害金の起算日および将来の賃金支払の終期に関し一部超え、その余の金員支払については右限度以下で被控訴人の請求を認容したことになるから、控訴人の控訴も、被控訴人の附帯控訴も一部理由があることになる。そこで、右控訴および附帯控訴にもとづき原判決主文第二、三項(金員の支払に関する部分)を当裁判所の右認定のように変更する。しかし、原判決主文第一項(雇傭契約上の権利確認の部分)は相当であるから、この点に関する控訴は理由がない。それゆえ、控訴人のその余の控訴を棄却する。よって、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、なお主文第二項(2)のうち将来の給付部分については仮執行宣言を付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田治一郎 裁判官 荻田健治郎 裁判官 尾方滋)

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